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字幕翻訳者 の戯言 アーカイヴ     107          < リストへ >
スカイ・クロラ
 「スカイ・クロラ」がヴェネチア国際映画祭に招待され、こ のエントリーが出る頃にはもう上映が終わっている頃でしょうか。「スカイ・クロラ」の英語字幕もお手伝いしました。「押井組」は2007年の「真・女立喰 師列伝」に続いて2本目なのですが、「押井組」ということでいつもあの形而上学的世界観がどこまで私たちを悩ませるのか、とドキドキなのでした。でも「ス カイ・クロラ」は以外とストレートな青春映画というか、押井監督曰く恋愛映画なので、もちろん長台詞と軍事トークは苦労しましたけど、死にそう!というほ どではなかったです。

 「スカイ・クロラ」は特殊な状況以外では死なない若者たちを主人公にした映画です。死ねないのは苦しい、という未来惑星ザルドスみたいな哲学的テーマ は、しかしザルドスの70年代よりは遥かに現実感がある命題であることにまずビックリ。先進国病なんでしょうねえ。イギリスでは70年代にそういう気分が もうあったということなのか。死ねない若者たちの決着のつかない空転する時間を扱ったこの映画の字幕翻訳をした頃に、私はちょうどカズオ・イシグロの 「Never Let Me Go」(邦訳は「わたしを離さないで」というのか・・・)を読んでいたのですが、「わたしを〜」は「臓器移植のために作られた若いクローンたち」の生に対 する複雑な心理を描いた小説なので、まさに「スカイ・クロラ」とは正反対の「死ぬことを運命付けられた若者たち」なわけです。運命は正反対なのですが、実 は「スカイ・クロラ」のキルドレは戦闘によって死ぬので、どちらも「人為的に決定された運命、先が見えない不安と能動的に確定できない人生に対する怒り」 が沈殿してるところですごくシンクロしているのでした。透明感あふれる描写と沈殿した鬱屈が共通している。そんなものを読んでいたので、すごく感情移入し まくりだったのでした。

  「わたしを〜」の半分を、決して外界と接触をもたない寄宿舎生活が占めているのも「スカイ・クロラ」の「基地」という閉じた世界な中での倦怠に通じるもの があり、面白かったのでした。「スカイ・クロラ」の天国のような空の青の素晴らしさ。地上の閉塞と倦怠が一層深く対比されるわけですが、あの映画で描かれ る「惰性と倦怠と情熱」はどっかで覚えが・・・と思ったら、そうか、高校くらいの学校生活ですね、私の場合。学校という毎日同じことが繰り返される空間の 中で冷めた目をしつつ、「いつ終わるんだよ、これ!」って怒りながら生きてるというのは。結局、不確定な青春が終わって若い頃のことを「イタかったけど、 オモシロかったな」とか甘酸っぱく思い出せるようになったりして年をとってくものなんですが、昨今の人々は便利になったが「永遠にも似た生を」「荒涼とし た精神的焦土」が広がる現代は「とても辛いことなのではないか」と押井監督も言っているように、ずっと「終わらない」気がするという事なんでしょうかね。 私は青春時代はとっくに過ぎてオッサンですが、いつまでも子供のままというのは辛いだろう、と思います。発展途上というのは終わりがあるから生き抜けるの だろう、と。今の若い人はそんなに迷っているのかな。「スカイ・クロラ」も「わたしを離さないで」も自分の先天的な存在を受け入れた上で自分の正体を探し て迷う人たちの話なので、そんなことを考えさせられました。

 「死なない子供」は「大人にならない子供」で、すなわち「ピーターパン」なんですが、ネヴァーランドの夢も実際生きてみれば悪夢だった、という先進国の 鬱屈した日常が、あの天国のような青空の向こうに見えるわけです。いや、子供のまんまってのはツラいですよ。

  もう一つ、「スカイ・クロラ」が衝撃的だったのは「ショーとしての戦争が平和を維持するために必要とされる世界」という部分。戦争というのはいつも平和を 暴力的にひねり出すショーとして行われてきたわけですが、実はその感覚はもっと日常的だったということに気づかされてドキッとしました。字幕翻訳とほぼ同 時期に起きた四川地震の映像を見て「怖いねえ」と思った瞬間、私も「スカイ・クロラ」の世界で描かれる大人の一人あることを痛感したのでした。どこかでい つも戦争があるけど私たちは平和、という戦後民主主義的日本の平和感のほころびは9.11で壊れましたけど、その後ろめたさを「スカイ・クロラ」は衝くの です。

 あと、Randy Thomのサウンド・デザインですね。サラウンド音響で聴く価値のある作品です。恣意的に動かない地上シーンのカメラが切りとった空間を、Thomの音響 が立体的に演出しています。ビクッとするほど効果的に。

 ヴェネチア上映はどうなったかというと、観客総立ちで4分間の拍手が送られたそうですから<記事>、 よかった!また9月4日の時点で70カ国に配給が決まっている<記事>のだ、ということで、めでたしです。
 加えてヴェネチアでは「スカイ・クロラ」が<フューチャー・フィルム・フェスティバル・デジタル・アワード>受賞ということで幕が閉じたよ うで。当事務所で9年前に英語字幕をやった「白痴」も同じ賞でした。運命を感じます。もうひとつ《Bastone Bianco Award》賞もとりましたね。
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