Dean Shimauchi Translation
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字幕翻訳者 の戯言 アーカイヴ     134          < リストへ >
ヘヴンズ ストーリー
 上映時間が・・・という事がまず話題になるポイントでしょうね。

 でも、そんなものはどうでもいいのです。長いか短いかなんて何の意味もない、と思わせる「流れ」というか「構造」を持っている映画です。

 長いといえば「愛のむきだし」ですがあれは237分でしたね。こちら「ヘヴンズ・ストーリー」は278分。でも長さ比べをしているわけじゃないのです。 どちらもその時間を必要とする物語を語っているのだ、ということが重要なのです。どちらの映画も1秒たりとも無駄にしていない。そしてどちらも当翻訳事務 所が英語字幕翻訳をやりました、て最後の部分はどうでもいい話です。

 しかし「愛のむきだし」は殺人的な字幕枚数(2827枚・・・1本の劇場公開映画なのに。同業者は笑っちゃうでしょ?)だったのに対して「ヘヴンズ ス トーリー」は一般的な尺の劇映画とあまり変わらない。「むきだし」がまるでライブトークのノリで観客を引きずりこんでいく、ラップみたいな言葉と音楽のシ ンコペ−ションが紡ぐ壮大なオーケストレーションだったのに対し「ヘヴスト」は映像が、演技者が引きずっている感情が、紡いでいく壮大な物語。どちらもス タイルは違うが、私はドップリ。

 「ヘヴンズ ストーリー」の到達するところは「許し」とか「癒し」という解釈をする人は多いと思うが、私はこの映画の持つ「あいまいさ」というか「多義性」が好きで す。勧善懲悪ではない、ということ。罪を犯した者が罰され、被害者はメデタシというような単純な図式を敢えて排除する姿勢。

 不条理な生を強いられた者、というか不条理な死に曝された者が、ギリシャ悲劇的なまたは大岡裁き的な正義を受けない、ということにこの映画が扱っている テーマの大きさが浮き彫りにされる。因果応報であるということのより複雑で巨視的な解釈。その視点を獲得するために、この映画は神話的な視座を必要とした のだろう。が、それは「神の視線」ではない。裁いてないわけです。仏教的というか。業の綴れ織みたいなものとしての人間。孤独な人もそうでない人も、ささ やかに幸せな人もドップリ不幸な人も、今産まれた人ももうすぐ死ぬ人も、その中で生きていて、死んでいくのだのだ、というある種、実も蓋もない現実。人生 の悲劇性を否定することが先進国文明の一つの条件であるフシがある中で、そのような楽観主義を否定する。すごい映画です。人間の手で与えうる救いではな く、もっと大きなうねりのようなものに存在そのものを救われる。そういう巨大さがある。

 演技もすごい。カメラもすごい。淀長さんの物言いみたい・・・。でもホント。

 カメラといえば、この映画には「彼岸」な雰囲気を漂わせるロケーションが印象的にたくさん出てきます。「ヘヴン」の話なんだから「死後」を想起させるの は当然なんですが、「天国」というよりは「彼岸」という感じ。つまり「死んだ後」で「天国の前」という印象。

 「天国に近い」モノの象徴として現れる高層住宅も、遠くから見ると天にも届かんばかりなのですが、その足元で柄本明と一緒に走り回っていると圧迫感を感 じさせる以外の何物でもない。天に届いているように見えても、それは実は「墓標」なのではないか。天に届こうとして失敗した建造物としてバベルの塔と近い 意味をもつのではないか。バベルの塔の話はコミュニケーションの失敗の話でもあるので、その側面も「ヘヴンズ」に深いかかわりを持つのではないだろう か・・・

 さて「彼岸の風景」という話ですが、具体的にはかつて賑わって今は廃墟と化した炭鉱の町。海岸沿いに並ぶ、浮遊感に満ちた団地。高層住宅にこめられた意 味。これは「高度成長モーレツ!昭和30−40 年代」の象徴としての廃坑の町、そして「消費文化が始まるぞ、イケイケ!昭和50年代」の象徴としての高層団地が、「大量消費時代の幕開け、ゴーゴー80 年代!」と「終身雇用、大企業神話、安全神話、安定政治、全部ダメじゃん、ドンヨリ90年代」を得て到達した21世紀に至って、明らかに疲弊し老朽化して いる、と いう事実と重なるようで興味深い。

 現代史の中で、ごく最近生まれたものが次々と、すでに死んだまたは死にそうな状態に陥っている日本。私達は死んだ文明の中に生きている。そしてその中で 死んでいく。そんな気分を、この映画のカメラは捉えている。極端な話ですが、何千年も前の最先端文明の象徴であるピラミッドを観光資源にしながらなんとか やっているエジプトみたいな、そのような局面に日本は入っていくのではないか。そんな雰囲気です。

 これは80年代には撮ろうったって撮れなかった画だと思います。(というか1950−90年という「子供の時代」に「疲弊と老朽」の話を作る事自体無理 でしょう)この「死んでいく昨日の日本」という概念は90年代には既に都築響一氏等がはっきりと自覚して写真に収めたりしていたのでしょうね。

 ドンドン生まれて次々と死んでいくのが、東京のような大都市の宿命ではあるのですが、産まれる活力は低下して、今は「死」が文明を覆っているようにも 見える。そんな時代だから描きえた、本当に巨大な物語です。これは観ないと損だよ!という映画。

 同じ長い映画で同じ「天国」でマイケル・チミノの「天国の門」という映画がありましたが・・・あれは最初のバージョンは330分だったそうですが、「ヘ ヴン」は「ヘヴン」でも「ヘヴンズ ストーリー」の方は一秒も飽きないですよ!「天国の門」も素晴らしい要素の詰まった映画ではあるのだが・・・それはま だ別の話、ということで。

2月19日「ヘヴンズ・ストーリー」が国際批評家連盟賞受賞との報あり!やった!!

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