Dean Shimauchi Translation
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字幕翻訳者 の戯言 アーカイヴ     147          < リストへ >
恋の罪
 園子温監督の「恋の罪」ついに、日本公開!何しろ海外が先というパターンが続いている園監督。 そう、日本市場は後回しになっておるんですよ、何とかしなければ。コヤを押さえたり宣伝打ったりと いろいろあるんでしょうが、先にイギリスとかで公開されちゃうというのはフットワーク重すぎじゃありませんか、興行関係の皆さん!無責任な発言でした。

 丁度一年ほど前に字幕翻訳を打診され、いつものように超高速作業が要求されることは明白でしたが(枚数も園監督であれば多いであろうと予想されました が)、当然快諾。寝ないでもやりますよ、園監督の映画なら。現場の苦労に較べれば翻訳者なんて大したことじゃないですね。

 で、「愛のむきだし」から連続的に凄い映画を撮り続けるなんて無理なんじゃないの、 と思って観たら、やっぱり凄かった。というかもっと凄かった。愛と背徳と裏切りと包容と、自己犠牲と自己否定と自分の中の多面性、そして自己探求と破壊の 旅。何をしても癒 さない傷と押さえられない自傷/他傷の願望と衝動。くわえて園監督独特のユーモアと詩情が綴れ折の絨毯爆撃です。すごくいいマッ サージを受けるとドップリ疲れますけど、 あんな感じの鑑賞後感ですかね。いろんなツボをくまなく刺激されますよ。スポーツ新聞的な見方をすると、女優が脱いだってことに目が行くんでしょうけど、 そういうのはどうでもいいのです。曝け出しているのは心ですからね。解放と恥辱と変身と堕落とが 一緒くたに混在してる行為なんです。清々しく滑稽。己の本性を掴むというのはそういうものなんではないでしょうか。

 さて「恋の罪」は例の東電OL殺人事件に刺激されて発想されたわけですが、あの事件は私の心にも深い陰を落としており、ずっと気になっていた事件でし た。二面性とか、そんな簡単な言葉ではいい現せない事件であり、私の理解を完全に拒絶する闇みたいなものがすごく怖かったのです。一般的には「自己達成」 の見本とも見える優良企業の女性管理職。しかしその「社会的成功」は自己人格を破壊するような行動という錘によって、微妙な釣り合いがかろうじて保たれた もの だった(のか?)オウム・テロ事件と通じ るものがありますね。幹部達の経歴が1990年代までに日本が達成したと思い込んでいた「モノ」 の脆弱さを雄弁に語っていましたが、あれに近い衝撃です。私のような小心者には覗き込むことすらできない闇を、園監督は独自の解釈で探っていきます。

 そしてその闇の案内人ミツコさん。

 闇の中に逆光で沈んで、しかも焦点外れて登場。そして焦点が合った瞬間の慈愛に満ちた微笑み。美しく怖ろしい 。マラン・マレのTombeau pour Monsieur de Lullyという、ヴィオラ・ダ ・ガンバとリュートによるバロックな調べに乗って登場する彼女と、彼女を演じる富樫真の衝撃・・ ・「冷たい熱帯魚」における吹越満氏のような、全身演劇サイボーグのような彼女。すごいですよ。優しい母性から吠える龍女まで0.1秒です。「むきだし」 の満島ひかるさんの更に高度な、というか揺れ幅がもっと大きい演技ですね。

 マレの曲が哀しげに果敢なげにリュートとガンバの掛け合いメロディで入って、しばらくしてリュート が後退して、引きずり込まれる様なガンバの低音が厳かに響く小節があるのですね。そこで彼女は輝くような笑顔(暗くて見 えにくいですが)のですが、笑顔の奥にある彼女の心の闇が音楽を通じて反転したような、胸倉を掴 まれた様な切なさが脳天を直撃・・・マーラーの交響曲第五番も、いずみの清浄なる狂気を現して素敵ですが、やっぱりマレですね。サントラでないのかな。

 マレの曲がスーパーマーケットのシーンで聞こえたとき「ん?バロック?」というのが第一印象。野に出て自分を(残念ながら地獄方面に・・・)探求してい くイ ズミのテーマかな、と思ったのです。おぼつかない足取りで手探りで闇を、嬉し恥ずかし進んでいくイズミとリュートの調べがすごく合う。でも夜の円山町 でマレが繋がるものの深さというか暗さがわかる瞬間がすごく刺激的。音楽的には、最初からこの映画がどこに向かって進んでいるかが明確だったんですね。 「Tombeau pour Monsieur de Lully」という曲の意味がわかれば、もっと明快です。

 ケン・ラッセルとかホドロフスキーとかパゾリーニとか、見る前から恐そうな映画って以前はたくさんあって、あの禁断な感じに憧れたもんですが・・・フェ リーニですら、何か見てはいけないものを見てるような感じがありましたよね。「オレ、この映画見て大丈夫かな」という青い恐れ。「この映画を観おわった 時、観る前と同じ自分 でいられるんだろうか」という興奮と畏怖の気持ち。「恋の罪」は久し振りに、そんな気持ちを持たせてくれた、昨今とても貴重な映画です。

 知ってしまうことの素晴らしさと恐ろしさ。新しいモノに変わることの刺激と古いモノを失ってしまうことの悔恨。憧れるものになっていく美しさとグロテス クさ。でも皆さん、見てしまったら、もう逆戻りはできませんよ。そういう映画です。

カンヌ映画祭、監督週間上映作品です。他の映画祭も順調に回っております。

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