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字 幕翻訳者の戯言 アーカイ ヴ     156          < リスト へ >
希望の国
 希望の国はどうも園子温っぽくなかった、と 思った人もいたかもしれませんが、ところがどっこいとても園子温らしい映画なのです。バラバラの死体が 出てこないからといって、安心していてはいけません。映ってないところに大勢の犠牲者がいて、しかも ちゃんとバラバラはあります。そう、地縁とか故里、そして家族ですね。文字通り陵辱されてバラバラに千 切って捨てられる家族があります。
 例えば1990年に神戸の高校で、登校時間終了に際して遅刻指導のために正門を閉めて生徒を圧死させ てしまった教員のような愚直さで、事故を起こした原子力発電所から半径20キロに杭を打ち、圏内の住民 を追い立てていく官憲の異様な姿。原子力緊急事態を前に右往左往する悪夢が、ここにあります。
 皆、慌てる。皆、慣れる。皆、違うことを言う。皆、わからない。そして忘れてしまう。忘却ということ がこの映画の一つの大きなテーマです。いろいろ忘れてしまっても、自分の心の故里は忘れない。でも象徴 的な意味で、経済行為が故里を奪ってしまう。哀しい忘却と喪失の近代史でもあります。
 もうひとつとても園監督らしいのは、盆踊りですね。いつもは緑や赤であるところのパレットが、今回は 白。あの白!崩壊した街をすっかり覆ってしまう白。一瞬にして過去を消してしまうかのような、白い空間 の中で、死者の魂を弔う盆の踊り。しかもそれが炭坑節だというのが、この映画に幅を与えていますね。 炭坑節は戦前から色々なバリエーションがあったものが戦後(恐らく録音製品として)今知られている形に まとまって、流行った唄。盆踊りといういささか形骸化した伝統の象徴的な唄ともなりました。炭鉱夫が 歌った春歌という起源があったのでしょうか。
 戦後流行した時には、炭坑節は傾斜生産方式で重点的に発展した石炭産業、ひいては経済発展のテーマソ ングでもあったはずです。日本の戦後復興と高度成長を支える基幹的なエネルギーとしての石炭。資源の無 い日本という国を動かす希望の灯火。そしてより効率のよいエネルギー源を選択するに際して放棄された産 業。炭鉱によって人が集まり町が出来て、炭鉱従事者以外にも職業の機会が出来て町が栄えていく。明日へ の活気と希望に満ちていく。そして閉山とともに寂れていく。土地から産業が消え、人は機会を求めて散っ ていく。
 そして日本は1兆キロワット以上の電力を必要とする巨大な消費/生産マシンになった。それは誰が主体 的にした判断でもなかったが(いや産業構造について考える立場に居た人はまさにそれを望んだでしょう が)、皆が知らぬうちにした合意だったわけです。希望の国は、そんな資本主義が持つ本源的な矛盾にも切 り込んでいきます。そして昨日のことはいともあっさり忘却してしまう私たちに、 静かに訴えかける映画でもあるのです。強制的に忘却させられたエネルギー政策の亡霊たちが、雪の中で踊っているのが、あの美しい炭坑節のシーンの裏の意味 なのでしょう。
 最近はフランスのドーヴィル・アジア映画祭に招待され、それ以外にも多くの国際映画祭を回った本作、 海外ではどのように受け取られたでしょうか。
 あ、それから園子温映画なのにセックスがないなあと思ったあなた、ちゃんとあったんですよ。最初の シーンの前の晩に!今回は「こんな世界に産み落としていいのか」といういつもとは違った形の、でもやは り罪の象徴です。原罪君ですから!ただし希望を伴った罪ですね。パンドラの箱みたいなもんです。開け ちゃった以上は、希望しか残ってない、という。「それでも生きていく」という「もののけ姫」みたいな決 意がそこにあります。

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