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字 幕翻訳者の戯言 アーカイ ヴ     164          < リスト へ >
歓呼の町
もう一つ戦争関係の映画を。
「歓呼の町」木下惠介監督。いわゆる国策映画として作られた作品で、ある街角の隣近所の住人が織りなす 人間模様を、ホームドラマ的な手法(当時そんなものはなかったでしょうが)によって掘り下げていきま す。

町の名士的な旦那さんと年頃の娘、娘の嫁ぎ先を案じる奥さん。廃業するかどうかで悩む家族経営の印刷所 一家。銭湯を営む夫婦。一獲千金を夢見て出ていったまま結果出せず帰るに帰れない夫を、お稽古事を教え ながら待ち続ける女性と飛行機乗りに憧れる息子、といった人々で構成される住人たち。ちょっとした対立 感情ややっかみなどもありつつ、基本的には皆つつがなくやっている普通のご近所です。一獲千金を求めて 出ていった男はさしたる考えもないまま大陸へ夢を追って行き、そのまま身を持ち崩してしまった箸にも棒 にも引っかからないような男。大陸へ、満州へ!と対外膨張政策に乗っかって中国大陸に行った人たちの象 徴的存在なのでしょうか。そんな父はもう帰ってくることなどないだろうと諦めている息子は、飛行機に夢 中。「風立ちぬ」の二郎さんの息子世代ですが、近代技術の粋にヤラレちゃっているところは似てますね。

彼らは町ぐるみで(それぞれの都合に合わせて)疎開することをやんわり強制されており、一体どこへ行っ たらいいのか、行くべきかとどまるべきか、お隣はどうするのかというのが町中の関心事。この疎開騒ぎを 通してお互いを理解していくのが筋になっています。やがて印刷所 一家は商売を畳んで疎開、主人は航空隊志願を決意。町から人がいなくなっても続けると威勢がよい銭湯の頑固親父は娘とその夫に説得されて疎開を決意。最悪 のタイミングで帰ってきた大陸で行方知れずになっていた男は、妻との関係が修復できるわけもなく、その 上生き別れになっていた飛行機乗りの息子は訓練中に事故で死んでしまいます。彼に思いを寄せていた町の 名士の娘は悲嘆に暮れ、もちろん息子の理不尽な死に飛行機乗りの母も絶望の底。結局皆町を出る決心をし 「ここで踏ん張ってお国のために戦っている兵隊さんのためにも」的な決意をして映画は終わるのです が・・・。

もちろんそんな希望を感じる要素は何もありません。軍部からクレームがついたという記述がウェブ上にあ りますが、こんなに悲惨な状況を正直に描き出して国策映画としてはどうなんだ、と心配せずにはいられな い内容です。何しろ共同体の崩壊とその悲劇をメロドラマに堕ちずに実に丹念に追っていくわけですから。 生業を捨てて、あるかどうかもわからないツテを頼って移住しろというのですから。

ここで気を付けなければいけないと思ったのは、この映画が昭和19年の観客にどう映ったのかということ ですね。今観てみれば、どう考えても理不尽さだけが際立つんですが、もしかしたら昭和19年の日本の 人々というのはこのような状況に理不尽さを感じつつも受け入れてしまえるような、そのような精神的文脈 の中にいたのかもしれません。大戦末期の日本は、外の情報は与えられず、自由に情報を交換することを制 限されながら一つの誇大妄想的な思想を完遂するという目的だけを見るように相互監視の中で生きるという のは、端的にいってカルト宗教みたいなものだったと想像するわけですが、そのような文脈の中に置いてみ るとこの映画の持った意味というのは随分変わるのかもしれませんね。これが国策映画として成立してし まったという恐ろしさも含めて、いろいろ示唆するところの多い作品です。  

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